マジメな話題から笑える小噺まで。ニッチな台湾を紹介します。

日大とトヨタから学ぶ危機管理。台湾と日本の特徴について。

日大とトヨタから学ぶ危機管理。台湾と日本の特徴について。

どーもこんにちは!

今日も元気に行きましょう。

台湾マスターです。

さて最近「危機管理」という言葉をよく聞きますね。毎日毎日耳にし、目にするワードです。もう聞きたくないという方もおられると思います。

少し前のタカタ製エアバック問題でも話題になった危機管理。今回、2018年5月に日大アメフト部選手による危険タックルが発端となり、また議論されることになりました。日大側のあまりにも「ずさんな危機管理対応」が火に油を注ぐ形となり、大きな社会問題となっています。また、日大に「危機管理学部」が存在したことも仇となってます。

いずれにしても、この事件を介して危機管理に対する理解が広まったのではないかと思います。

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危機管理とは?

危機管理、危機管理とよく耳にしますが、危機管理とは一体何でしょうかね?

簡単に言うと、危機管理とは

すでに発生した事件・トラブルに対し、それ以上物事が悪化しないよう事態をコントロール(管理)することです。

広義で言えば、デジタル大辞典での定義のように

大地震などの自然災害や、不測の事態に迅速・的確に対処できるよう、事前に準備しておく諸政策。

引用元:デジタル大辞典「危機管理」

ということも意味も含まれますが、これは「危機管理」というよりは「リスク管理」の分野になります。

危機管理が主に不測の事態が発生した後の対応を意味するのに対し、

リスク管理は不測の事態が発生する前の対応を意味します。

何が起こるかわからない時代ですから、いかなる組織もリスク管理を徹底し、危機管理も十分に考慮したうえで運営していかなければなりません。

また、今やネット社会なんでSNSやその他のツールを利用すれば、誰でもいくらでも瞬時に情報を得ることができるようになり、以前ならあの手この手を使ってちょろまかせたことが、今となっては「国民皆監視社会」ということで簡単にちょろまかすこともできなくなりました。

日大はなぜ危機管理がなってないといわれるのか?

今回発生した問題、なぜ危機管理不足と指摘されているのでしょうか?

自分なりに整理してみました。私は危機管理のプロフェッショナルではないので、あくまでも「いち素人」としての見解になりますが、仕事上で危機管理も扱う部署にいますので、全くの素人ではありません。

※危険タックルをした選手とそれを指示したとされる監督・コーチの「乖離」については、明らかに選手側が真実を語っているはずですが、「言った、言わない」の問題は立証が難しいので、ここはあくまでも「なぜ危機管理がなっていないのか」に的を絞って記述します。

危機管理がなってない原因

まず、この事件を時系列で追ってみましょう。

5月6日 日大VS関学アメフト定期戦。危険タックル発生、SNSで拡散開始

5月10日 関学側が抗議文を日大に発送(5月16日までの回答を要求)

5月12日 関学側第一回会見

5月15日 関学、日大からの回答受領

5月17日 関学側第二回会見

5月18日 加害者選手と家族が被害者選手に謝罪

5月19日 日大監督が関学に出向き謝罪し空港で簡易会見

5月21日 関学選手と家族が被害届提出

5月22日 加害者側選手による単独会見(弁護士同席)

5月23日 日大監督・コーチによる緊急会見(広報炎上)

5月24日 日大再回答

5月25日 学長会見

5月26日 関学側第三回会見

6月1日 日大側、スポーツ庁を訪れ理事会内容を説明

上記の流れを考察し、私が整理した危機管理不足の原因は

1.後手後手の対応

2.火に油を注いでしまった広報の対応

3.日大トップが何時になっても会見しない

以上に尽きると思います。

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後手後手の対応

この事件、悪質タックルがSNSで拡散され皆に知られる結果になりました。この時点で、特に5月10日の前の時点で即座に日大側が会見をまず開き、第三者委員会を設置した上で事実を調査すると報告し、しかるべき人物が謝罪していれば、これだけの社会問題になることはあり得ませんでした。

5月19日になってから初めて、日大監督は関学を訪れ謝罪し、空港にて簡易会見を開きましたが、特に何か特別な事を語ったわけではありませんでしたね。

加害者側選手はにっちもさっちもいかない状況を憂慮し、弁護士によく相談したうえで、5月18日に家族とともに被害者選手と家族に謝罪、5月22日に一人で会見を開き、誠実に罪を認め謝罪しました。

それに焦ってかはわかりませんが、明らかに準備ができていないにも関わらず翌日に5月23日に監督とコーチが緊急記者会見し、選手側の受け取り方の問題とし、改めて「乖離があった」と主張。

この会見で私が気になった発言は、謝罪については日大監督は関学からの電話を待っていたとの事。文書で来たので、これからは文書のやりとりになる、と思ったと発言していたことです。

監督という現場のトップとしての責任があり、相手選手が負傷した事実があるのですから、試合後すぐに、少なくとも5月10日の前までに、「待つ」のではなく、すぐにでも自分の方から電話なり何なりして問題の対応をすべきでした。

全くもって危機管理がなってないです。

火に油を注いでしまった広報の対応

SNSで問題映像が拡散された時点で、日大側が不利な状況になったことは明白です。

その後、関学が会見を開き、メディアでも連日、映像が流され、討論されることで、日大アメフト部はさらに厳しい状況におかれてました。

その後、広報は選手側と監督側の「乖離」という到底受け入れがたい主張に徹し、監督擁護のスタンスを取りました。

5月22日に日大加害者側の選手単独会見を開き、その真摯且つ誠実な対応で、メディアと国民はパワハラを受けていた加害者選手に同情し、矛先はアメフト部の監督、コーチに向けられました。

そこで急遽行われた5月23日の監督・コーチによる会見ですが、司会進行の広報担当者の対応が

危機管理としては最悪のものとなりました。

四面楚歌の状況での会見。

どんな些細なことでも揚げ足を取られかねない状況。

日本全国の人が見ている場での会見です。

素人的に考えて、これ以上傷口を広げないためにも、ここはとにかく謝罪し、時間の制限なく、とことん記者の質問に向き合う姿勢がどうしても必要でした。

問題を「乖離」とするにしても、ここはずっと耐え、記者の質問に誠心誠意をもって回答しなければけないのにもかかわらず、この司会者は横柄な態度で記者に質問を妨害し、最終的には会見を打ち切りました。

本当にあり得ない会見でした。

ここまで来るともう笑うしかないですね。会見の場でも記者も苦笑してましたし。

日大側のこの問題の認識と、世間のそれとでは、それこそ

大きな「乖離」がありましたね。

小学生でも空気読める状況だったと思います。

本当にKYな発言で終了してしまいました。

危機管理をなんと定義しているんでしょうかね?

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日大トップが何時になっても会見しない

前述のとおり、5月6日に問題が起こった時点ですぐに日大アメフト部が会見等を行い即座に対応していれば、日大理事長まで出てくる必要がもしかしたらなかったかもしれません。

しかしその後5月22日に加害者選手が会見を開き、内情をメディアに訴えた段階で、問題がアメフト部から日大全体へとシフトし始めました。

翌日5月23日の監督・コーチによる会見では、内容もさることながら司会者である広報担当者の対応で会見自体が炎上し、論調が完全に日大全体の問題となり社会全体が注視する事件にまで発展しました。私は関西の田舎に住んでいますが、ちょうど帰省していた時に、スーパでおばさんたちがこの話題について会話しているのを耳にしていました。そんなアメフトとは全く何の関係もないおばさんまでもが気にする事件になったんです。

危機管理的にはすぐにでも大学トップである理事長が出てきて会見を行い、事態の収束を図る必要がありました。これだけ事が大きくなり社会問題となったんですから、トップが出てきて会見でも開かないと埒が明かないです。

しかし、2018年6月5日現在、まだ理事長による会見は開かれていません。

問題の調査にあたる日大の第三者委員会も、問題発生後1か月が経とうとしていた5月31日になってやっと設置が決定されました。

調査完了後、理事長からの報告となると学長はおっしゃってましたが、その調査は7月末までかかるということですので、あと2か月は理事長が表に出てくることはないでしょう。

危機管理なんかあったもんじゃないですね。

危機管理という点ではどうしようのない悪い手本となってしまった日大ですが、危機管理の点では良い手本となったものもあります。私がこの事件をみて即座に思い出したのが世界のトヨタです。

トヨタの危機管理

トヨタ自動車の常務役員で米国籍の女性が2015年6月18日に麻薬取締法違反(輸入)の疑いて逮捕された時の出来事です。

トヨタ初の女性役員であり、ゼネラルモーターズやペプシコを経て2012年にトヨタに入社した能力のある女性でしたが、6月11日に麻薬成分の「オキシコドン」を含む錠剤57錠が入った国際郵便を輸入し、6月18日午前に滞在していた六本木のホテルで逮捕されました。

その際、トヨタはどうしたでしょうか?

A.その事実を公表せず自然と女性をフェードアウトさせた。

B.知らぬ存ぜぬで貫き通した。

C.速攻会見を開き、事情説明した。

正解はCです。

逮捕翌日の6月19日に緊急会見を開きました。だれが会見に出席し事情を説明しましたか?

世界的企業トヨタ自動車トップの豊田章男社長です。

これについては「そこまでやる必要はない」など、様々な意見がネットを調べると出てきますが、私としては非常にいい危機管理の例だと思います。

逮捕翌日のことなので、会社としても事実確認ができない、わからないことがたくさんあったと思います。でも会社のトップとして緊急会見を開き、上手く表現できなかったり、回答内容の重複があったりしましたが(おそらくトヨタ側の弁護士の指示)、少なくとも豊田社長は誠実に記者からの質問に回答していました。

この問題、最終的には6月30日に女性が辞任するという結果になりましたが、その後マスコミから執拗に追及を受けたりすることはありませんでした。

もちろんこれにはトヨタがスポンサーをしているテレビ番組が多数あり、マスコミ的に深堀できないという大人の事情があるのかもしれませんが、一番の要因は

会社のトップが事件発覚後すぐに会見を開き素直に事情を説明したからです。

豊田社長、社長就任直後にも急加速問題で米国議会で自ら証言台に立ち謝罪しており、その姿勢は世界的に評価されました。

この問題は単純なリコール問題というよりはアメリカ主導のトヨタバッシングの意味合いが強かったので、トヨタ自動車としては理不尽な部分もあり可哀想でした。結局、急加速問題の原因調査をしていた米運輸省・米運輸省高速道路交通安全局による最終報告で、器械的な不具合はあったものの、電子制御装置に欠陥はなく、急発進事故のほとんどが運転手のミスと、シレっと発表しましたからね。そんでもってあれだけトヨタを批判していた当時の運輸長官も「娘にはトヨタの車を安全だと薦め実際に買った」とか発言する始末。

結果的にはトヨタにとっては良かったのかもしれませんが、訴訟費用等の民事での和解費用30億ドルと、米司法省との和解金12億ドルを支払うという痛い出費が伴いました。(「トヨタが1200億円の和解金を払った理由とは?」というニューズウィークの記事に詳しく書かれていますので、興味のある方はどうぞ。)

もし、豊田章男社長が米議会において謝罪していなければ、もっと大変な事件になっていた可能性があります。トヨタがつぶれていたかもしれないのです。

危機管理として、あくまでも自社の正当性を立証しアメリカを敵に回すよりは、素直に非を認め謝罪することを選んだんですね。あっぱれです。

最近のフェイスブックのマークザッカーバーグ氏が同じく情報漏洩問題で議会にて証言しましたが、彼もひたすら謝罪し、再発防止案を徹底すると明言し、その内容が投資家から評価され問題発覚後下がっていた株価が高騰しました。

さっさと素直に非を認め謝罪する。

これが危機管理の王道です。

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台湾の危機管理

日本において、危機管理学を教えている大学が3校あります。

千葉科学大学(2004年4月)

日本大学(2016年4月)

倉敷芸術科学大学(2017年04月)

この3校です。

台湾ではどうでしょうか?

調査しましたところ、現時点で危機管理学部を持つ大学は台湾国内にはありません。

内容は少し異なりますが「リスクマネジメントと保険」を教える大学院(政治大学・國立高雄第一科技大學・逢甲大學・實踐大學・銘傳大學)はありますし、大学においても「危機管理学」の授業を選択できる大学もありますが、「危機管理学部」という学部は存在しません。

日本でもたった3校しかないくらいですからね。

そのうち台湾にも設置されるでしょう。

台湾の危機管理事例

成功例もありますが、失敗例はたくさんあります。今回紹介するのは台湾の外交部が犯した失敗です。

それは、パスポートのイラスト誤植問題です。

2017年12月25日に、第二世代チップを搭載した新パスポートの発給が開始されましたが、受領した台湾人が中身を確認したところ、4ページ目と5ページ目に印刷されている空港のイラストが、アメリカのワシントン・ダレス国際空港にそっくりであることが確認されました。

その新パスポートのイラストがこれです。↓(画像元:Wikipedia)
P4-5 of Republic of China Passport (2017 version)

で、ダレス空港がこれです。↓(画像元:Wikipedia)
Dulles Airport Terminal

疑いようもなく、このイラストは台湾の桃園国際空港ではなく、ダレス空港であることが明白であるにもかかわらず、台湾外交部公衆副執行長の欧江安氏は12月26日午前での定例会見で

「これは桃園国際空港である」と発言しました。

それは会議議事録にも残っており、外交部の議事録として今もネットに掲載されています。

で、これが桃園国際空港です。↓(画像元:Wikipedia)
Taoyuan International Airport, Taiwan (8336946440)

ありえない嘘をついてしまいました。幼稚園児でも違いが判る代物です。

ただし、まだ評価できる点としては、12月26日の当日夜に再度会見にて前言が撤回され、正式に「誤植」であることが発表されました。

そして翌日27日にはこの問題の責任者である領事事務局長陳華玉氏が辞任し外交部参事の降格人事となりました。また、新パスコート変更作業に関わっていた前局長である龔中誠氏も駐カナダ大使の任を解かれ本部付けの降格人事となりました。

別件ではありますが、2017年8月15日に発生した全台湾停電事件も、危機管理という点では「付け焼刃」の会見で非難を浴びましたが、停電が発生した8月15日当日に責任をとって経済部部長(日本で言う経済産業省大臣)である李世光氏が辞任を表明し18日に正式に退官となりました。また問題の発端となった中国石油の董事長である陳金德氏も同じ18日に董事長の職を辞任しました。

あくまでも私個人の考えですが、危機管理という点では、日本よりも台湾の方がスピード感をもって対処しているように感じます。

もちろん、会見内容等はお世辞にも素晴らしいものではありませんが、とにかく台湾で事件が起こると会社や官公庁のトップが即座に会見なりを執り行い、それなりに質疑応答を行っております。

逆にもし逃げようものなら日本の比ではないくらいのバッシングを受け、下手すれば私刑にさらされます。

マスメディアも特に忖度することなくズバズバ自由に報道するので、見ていて清々しい時もあります。

ちなみに国境なき記者団が発表する2018年度の報道の自由度は台湾がアジアで1位の42位であり、日本は67位です。

そんなこんなで、問題発生後に責任を取って辞任する人が多いです。辞めりゃいいというわけではありませんが、全体的にかなりのスピードで物事が進んでいきます。

危機管理という点では、台湾の方が進んでいるんじゃないか?と私は考えます。

終わりに

危機管理のポイントとはなんでしょうか?

スピード感

責任者登場

非を認めて謝罪

誠実で嘘のない説明

対策等今後の日程の開示

質疑応答に十分な時間を取る

全ての質問に誠実に答える。

これに尽きると思います。

台湾と日本の特徴については、ビジネスの進め方にしても、その他問題の処理の仕方にしても、私はこのように考えます。

スピード重視の台湾。

石橋を叩いて渡る日本。

この特徴、「危機管理」の面では台湾に分があると思いますが、「リスク管理」という観点では日本に軍配が上がります。

得意分野が違うんですね。

日本と台湾の特徴をうまく融合できれば完璧です。

どれだけ完璧にリスク管理をしていても、天災・突発的なアクシデントが発生する今、組織にしても個人にしても、事が起こってしまった後の危機管理はきっちりとしたいものですね。

少し長文になりましたが、お読みいただきありがとうございました。

台湾マスターより。

 

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